タバコの害を考える_その2

〜「低タールたばこ」はこんなに怖い〜


タバコの害を考える_その2

 嫌煙運動のメッカであるアメリカには、今でもたばこを吸う人が3000万人いる。 ただでさえ、職場や公共の場で肩身の狭い思いをしなければならないのに、先ごろまた、喫煙者にとって憂うつなニュースが飛び込んできた。

 NBCテレビが入手した情報によれば、米疾病対策センター(CDC)は近く、喫煙者にとってきわめて重大な研究報告を発表する予定だという。その結論を要約すれば、「ライト」と呼ばれる低タールたばこを吸っても、タールの多いたばこを吸っているのと発癌リスクは大差がない、ということになる。

 このため、健康のために「ライト」を吸っている人は、まったく無駄な努力をしていることになる、とCDCは警告している。


低タール表示はほとんど意味がない

 現在アメリカで売られているたばこの60%は、「ライト」として宣伝されている低タールたばこである。消費者の方も、タールの含有量が少ないから、安心してきついたばこからスイッチするようだ。

 たとえば、カリフォルニア州在住のホープ・ドナルドソンという女性の場合。彼女は数年前から、ライトしか吸っていない。「もう完全にやめようと思っていたから、これで少しずつ体を慣らしていこうと考えたわけ」。だが、そう話す合間にも、彼女は指にはさんだライトをくゆらせている。 「それで、やめられたんですか?」と筆者が聞くと、ドナルドソンは、「全然だめだったわ」と答えて大笑いした。

 だが、今回のCDCの研究報告が事実なら、多くの喫煙者にとっては笑い事ではすまない。 低タールたばこは、1960年代前半にアメリカで初めて開発された。喫煙本数が同じなら、確かにタール含有量の多いたばこより、肺がんなどの危険性は下がる。だが、それでも非喫煙者よりリスクが高いことは否定できない。

 低タールたばこはニコチンの含有量も低いため、喫煙者は本数を増やしたり、煙を吸う頻度を多くするなどしてニコチンの摂取量を増やそうとする傾向がある。そのため、低タール表示はリスクの低減と必ずしも結びつかないのだ。

さらに、低タールでも、肺癌、心臓疾患、それに胃や十二指腸潰瘍などのリスクは確実に増大するのである。


物足りないので煙を吸い込む回数が増える

 CDCの調査を実際に担当したのは、ペンシルベニア州立大学のリン・コズロウスキ教授だ。 低タールたばこには穴のあいたフィルターがついていて、煙の中の有害物質が空気によって薄められるようになっている。混じる空気の量が多ければ多いほど、有毒物質は薄くなる。そこでコズロウスキ教授は、特殊な機械を使って、特定のブランドのたばこの煙に、どの程度の量の空気が混じるかを測定してみた。

 その結果、同教授は次のような結論に達したという。

 「マールボロ・ライト、キャメル・ライト、そしてウインストン・ライトに関しては、次のことが言える。
 これらのたばこに変えることで、自分の健康が守れると考えている人がいるとしたら、それは大きな間違いだ。リスクが減ったと考える根拠はまるでないのだから。。」

 もっとも、コズロウスキ教授によれば、たばこの吸い方を変えるだけで、かなり有毒物質を減らすことはできるという。教授らの調査によれば、喫煙者はライトを吸うとき、通常よりも3回か4回多く、煙を吸い込む傾向がある。物足りなさを感じるので、どうしても煙を多く吸い込もうとしてしまうのだ。その結果、きついたばこを吸ったのとほとんど変わらない量のタールとニコチンを摂取することになる。

 このため、嫌煙派のなかには、低タールたばこを「たばこ業界の策略」として目の敵にする人たちもいる。

 たとえば、子供をたばこから守るための全米センターのマット・マイヤーズは、「低タールたばこの開発は、国民の健康を脅かす許せない行為だった」と非難している。

 だが、上にも書いたように、低タールたばこのフィルターには、きわめて小さな穴があけられている。喫煙者が吸い込む際に、空気が煙と混ざって有害物質が薄められるようにするためだ。マールボロ・ライトには小さな穴が2列に並んでおり、カールトンやドラル、それに「超低タールたばこ(ultra light)」といわれる種類には1列だけ、やや大きめの穴があいている。

 問題は、メーカー側のPR不足のため、喫煙者の大半がそんな穴があるとは夢にも思っていないことだ。そのため、多くの人は、穴の上を口や指でふさいだまま吸ってしまっている。これでは、せっかくの工夫も台なしだ。


メーカー側はもっとPR努力を

 一方、大手たばこメーカーのフィリップ・モリスは、NBCニュースに対して、今回の調査には科学的に納得できない点があるという趣旨の声明文を送ってきた。同社は、CDCの発表に対しても、「正式の回答」を行う予定だと語っている。

 だがCDCの調査結果は、はたしてどこまで信頼できるのだろう。

 その答えは、まもなく別の団体によって明らかにされるかもしれない。現在、CDCの研究よりさらに対象範囲を広げた調査が、アメリカ健康財団によって行われているからだ。こちらの調査は、100人以上の喫煙者を対象に行われており、財団のミルジャナ・ジョージェヴィックによれば、すでに「低タールたばこを吸っていても、そうではないたばこを吸う人とほとんど同じの量のタールとニコチンが体内に摂取される」ことを示すデータが得られたという。

 全米癌研究所によれば、低タールたばこの開発によって癌による死亡率が減った形跡はないという。1950年以降、たばこの平均タール含有量はかなり減少した。だが、肺癌や心臓疾患、それに喫煙に原因があるとされるその他の病気でアメリカ人が死亡する率は逆に増大しているのだ。

 コズロウスキ教授は、低タールたばこのフィルターについて、メーカー側はもっとPRすべきだと語っている。また、穴のあいている部分の色を変えるなどして、喫煙者がふさがないように工夫してはどうかともアドバイスしている。

 だが、低タールたばこの危険性を知ってしまった今、喫煙者はどうすればいいのだろう。開き直ってきついたばこに戻るのは、もちろんお勧めできない。途方に暮れるくらいなら、「やめる」という最後の手段もあるが、それだけはむろん、誰にも強制できることではない。




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